つくば蘭展(その4) つくば植物園野生蘭コレクションから(1)

 11月21日、つくば植物園で開催されたつくば蘭展を見に行ってきました。
 今回は、多目的温室に展示された、筑波実験植物園 野生蘭コレクション展示の中から紹介しようと思います。
 つくば植物園では研究と保全のため約3,000種のランを育てており、世界有数のラン科研究施設として知られています。つくば蘭展では、その中から、今の時期に花が咲いているものを選んで、約200点が展示されました。
 今回の展示の目玉は、ニューギニアの巨大なランです。滅多に開花しないため、日本では初公開と思われるとのことです。

ディモルフォルキス・ベッカリー
Dimorphorchis beccarii
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長い花茎は数年間枯れずに残り、次々に花を咲かせるそうです
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 ニューギニア島低地の木や岩の上で、直射光を浴びる灼熱の環境で育ちます。現地では葉の長さが1.5m、花序の長さが5~7mにもなるそうです。
 ショクダイオオコンニャクを発見したイタリアの探検家・ベッカリが発見したため、氏にちなんで名前がつけられています。
 古今東西の研究者で最も多くのランの新種を発表したルドルフ・シュレヒテルをして「これまでに出会った最も奇妙なラン」と言わしめた種です。      (説明板より)

 続いて、野生蘭コレクションから「今年のおすすめ」品種の紹介です。囲みは、つくば植物園の説明文です。
(今年のおすすめ その1)
 パフィオペディルム・インシグネ・サンデラエ
Paphiopedilum insigne f. sanderae
インド北東部原産
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 花弁の1枚が袋になっていますが、昆虫を食べるわけではありません。袋の中に滑って落ちた昆虫が這い上がるときに、花粉を背中に付けて受粉させる巧妙なワナになっています。
 この種は本来うすい黄褐色の花ですが、黄色い花を咲かせる突然変異株が1888年に発見され‘サンデラエ’と名付けられました。
 この株はかつて新宿御苑から来たものです。1914年の同苑の栽培植物目録に掲載されていますので、100歳を超えたご長寿様です。

 その他のパフィオペディルムから。

 左下、パフィオペディルム・バルビゲルム(Paph. barbigerum) 中国
    右下、パフィオペディルム・グラトリクシアヌム・ダオエンセ
             (Paph. gratrixiianum var. daoense) 中国、ラオス、ベトナム
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 左下、パフィオペディルム・バルビゲルム・ロキアヌム(Paph. barbigerum var. lockianum)
    右下、パフィオペディルム・コクネシウム(Paph. coccineum) ベトナム
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 左下、パフィオペディルム・チャムベリアナム(Paph. chamberlainianum) スマトラ島
    右下、パフィオペディルム・ジャワニクム(Paph. javanicum)
                        シャワ島、バリ島、スマトラ島
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(今年のおすすめ その2)
 プテロスティルス属

プテロスティリス・オフィオグロッサ (Pterostylis ophioglossa)
オーストラリア、ニューカレドニア島
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プテロスティリス・トヴェヤナ (Pterostylis toveyana)
オーストラリア
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 球根植物です。サトイモ科のカラスビシャクのような、ランとは思えない不思議な花です。花の中から舌をペロツと出しているのが花弁の1枚、唇弁です。ここから出る化学物質にだまされて、キノコパエのオスは唇弁をメスと勘違いして交尾します。その拍子に唇弁がうしろに倒れ、もがいて隙間から出ようとするオスの体に花粉がつきます。カラスビシャクの仲間もキノコバエなどをだまして受粉に利用するので、両者の「他人のそら似」はキノコバエをだますという同じ理由だったことが分かります。

(今年のおすすめ その3)
オベロニア・ヘリオフィラ
Oberonia heliophila ソロモン諸島~サモア
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 日本に自生するヨウラクランと同じ属で、木の幹にぶら下がって暮らします。南太平洋のバヌアツで2007年に採集しました。イボのように見えるひとつひとつが花。径Immたらずの、ラン科としてはもっとも小さい花のひとつです。1本の花序に何輪ついているか数えてみてください。1000輪を超えるかも。


 きれいどころが少なかったので・・・・

ディメランドラ・ステノペタラ
Dimerandra stenopetala
ジャマイカ、南米北部(標高700m以下)。エピデンドラムの近縁属
同じ花茎から何度も咲かせ、花保ちも良い。花径は2.5cm~
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 11月21日撮影。
 (つづく)


この記事へのコメント

  • 寿々木

    冒頭の画像、土無ですか?バンダ同様水分さえ有れば根に共生する細菌から栄養をもらうんでしょうか。パフィオもいろんな模様があるんですね。名はビーナスのスリッパという素敵なイメージなんですか・・
    2018年11月28日 15:32
  • 長さん

    寿々木さん、コメントありがとうございます。
    冒頭のディモルフォルキス・ベッカリーは鉢に植えてあるのですが、根が鉢からはみ出して長く伸びています。岩などに着生するランなので、長く伸ばした根から空気中の水分を吸収するのでしょう。
    パフィオは色々な模様が入った品種の方が多いようです。
    2018年11月28日 15:46
  • river

    ディモルフォルキス・ベッカリーは花茎が2mにもなるとんでもないランですね。20年栽培して初めて咲いたと言うのもすごいことです。それにしても良く咲いたというか咲かせたというか忍耐と努力の賜物ですね。
    2018年11月28日 17:20
  • 無門

    こんにちは

    いつも感心する
    植物のだましのテクニック
    元々だますつもりではなく
    偶然そうなって
    味を占めたのでしょうね
    2018年11月28日 17:20
  • 信徳

    ディモルフォルキス・ベッカリー
    こんな巨大なランは花芽、茎が伸びて一年で終わってしまうのは勿体ないですよね。
    このランもそこを知っていて数年間花を咲かせるのでしょう。凄いですね!
    2018年11月28日 17:22
  • eko

    ディモルフォルキス・ベッカリーは何と大きくて奇妙なランなんでしょう。日本で初公開の花見られて良かったですね。
    パフィオペディルムも種類が多いですね。子孫を残すための仕掛けが面白いです。
    その他のランも不思議な花を咲かせています。オベロニア・ヘリオフィラの紐のような花の集合、どれだけあるのかとても数え切れません。
    最後のディメランドラ・ステノペタラを見て何かホッとします。
    2018年11月28日 18:25
  • 長さん

    riverさん、コメントありがとうございます。
    15時から研究員によるガイドがあったのですが、その方がニューギニア島で採取され、20年に亘って育ててきて、昨年やっと開花したのだそうです。さぞご苦労があったのでしょうね。
    2018年11月28日 19:04
  • 長さん

    無門さん、コメントありがとうございます。
    植物の方ではだますつもりではなく、どうしたら自分に寄ってくる昆虫に効率よく花粉を運んでもらえるかと思って進化を遂げてきたのです。
    2018年11月28日 19:08
  • 長さん

    信徳さん、コメントありがとうございます。
    こんなに長い花茎を毎年伸ばそうとしたらかなりの養分が必要になりますね。厳しい環境だからそこ、花茎を長持ちさせる性質を身につけたのでしょう。
    2018年11月28日 19:11
  • なおさん

    さすがはつくばの植物園ですねえ。なかなか見られないランも研究のためにコレクションしているのですね。

     ニューギニアの巨大なランも興味深いものですし、プテロスティリス・オフィオグロッサも面白い形で、ランの多様さには驚かされますね。
    2018年11月28日 19:55
  • nobara

    ディモルフォルキス・ベッカリー
    お花は小さいのに株が凄いですね~
    お花はそれでなくても保ちがいいのに?さらに??
    プテロスティリス・トヴェヤナって、ウラシマソウみたいですね。
    蘭はこうやって、見せてもらうに限りますね。
    2018年11月28日 20:08
  • mori-sanpo

    本邦初公開のニューギニアの巨大なランの花をご覧になれて良かったですね。
    花序の長さが5~7mにもなるとは驚きです。
    また、パフィオペディルム・インシグネ・サンデラエの株が100才を超えたご長寿様ででしたか。
    2018年11月28日 21:04
  • 長さん

    ekoさん、コメントありがとうございます。
    ディモルフォルキス・ベッカリーの花茎が数年も枯れないなんて、これまでのランの知識を覆しました。
    パフィオについて、研究員は食虫植物ではないと強調していましたが、見に来ている方は先刻承知という顔をなさっていました。
    ディメランドラ・ステノペタラ、原種でこの美しさですからねー。
    2018年11月28日 21:44
  • 長さん

    なおさん、コメントありがとうございます。
    3,000種も保有していると、1名の研究員が受け持つ品種もかなりの数になるでしょうね。
    花茎が数年も生き続けるランなんて、始めて知りましたよ。
    プテロスティリスの仲間は、らん展では必ずと言って良いほど出展されます。
    2018年11月28日 21:48
  • 長さん

    nobaraさん、コメントありがとうございます。
    ディモルフォルキス・ベッカリーは花茎を分岐させながら、数年間も花を咲かせ続けると言うから驚きです。一つ一つの花保ちも良さそうです。
    プテロスティリス属は紐状になった側花弁が1本ならウラシマソウそっくりですね。
    2018年11月28日 21:52
  • 長さん

    mori-sanpoさん、コメントありがとうございます。
    ディモルフォルキス・ベッカリーの花序が7mにもなるというのは驚異的です。数年も枯れないで延び続けるのですね。
    ランも上手に育てれば100年以上生き続けるのですね。地上に最後に出現しただけあって凄い生命力です。
    2018年11月28日 21:57
  • うふふ

    保全と研究のために3,000種も育てているのですか。
    想像もつきませんが大変なお仕事ですね。
    オベロニア・ヘリオフィラに驚きました。
    1mmの花が1000輪を超えるとは…。
    見ているだけでクラクラしそうです(笑)
    2018年11月28日 22:03
  • ロシアンブルー

    こんばんは。
    これはまた珍しいランばかりですね。
    100歳以上の長寿ランは管理するのに代が変わりますよね。
    何かの尻尾の様なちょっと見ただけではランとは思えませんね。
    面白いランをみさせていただきました。
    2018年11月28日 22:06
  • イッシー

    不思議ちゃんばっかりですね~。
    ジャングルの中で出会ったら感動するだろうな!
    ほんと面白い花が多いですよね!
    2018年11月28日 22:17
  • 月奏曲

    なんというか…ディモルフォルキス・ベッカリー…このw

    ウニのお化けがヒトデ串刺しにして吊るしてるというかなんというかw
    不思議で奇妙な感じですね(-_-;)

    プテロスティリス・オフィオグロッサ 、こっちはこっちでカタツムリぽいしw
    2018年11月28日 22:31
  • 長さん

    うふふさん、コメントありがとうございます。
    つくば植物園のランの保全・育成は世界レベルなんだそうですよ。
    オベロニア・ヘリオフィラ、花の大きさは1mmですからルーペを使わないと見えません。会場には、直径5cm位のルーペを貸し出していました。
    2018年11月28日 22:50
  • 長さん

    ロシアンブルーさん、コメントありがとうございます。
    3,000種となると、かなり希少な品種も含まれると思います。育成方法が確立されているわけではないので、大変な仕事ですね。
    100歳以上の株なんて、盆栽並みですね。
    実は、ランはもっと奇妙な形のものもあるのですよ。
    2018年11月28日 22:53
  • 長さん

    イッシーさん、コメントありがとうございます。
    ランにとりつかれて、あちこちのジャングルの中を探し歩いているランハンターが実際にいるんですって。
    2018年11月28日 22:55
  • 長さん

    月奏曲さん、コメントありがとうございます。
    ディモルフォルキス・ベッカリー、面白い形容ですね。
    つくば洋蘭会の出展作品の中に、ウニの中身みたいな花が咲いていましたよ。いずれご披露しますけど・・・。
    プテロスティリス、指で作る影絵のうさぎみたいでしょ。
    2018年11月28日 22:59
  • すーちん

    お早うございます
    思いもつかない様な形をした
    ランも有るんですね
    奥地にはまだ発見されて無い珍しい
    ランも存在するんでしょう
    2018年11月29日 07:52
  • 長さん

    すーちんさん、コメントありがとうございます。
    ランは綺麗なものだけとは限らず、これがランなの?と目を疑うようなものもあります。
    まだ人知れず、人が入れないような奥地でひっそり生きのびているランがきっとありますよ。
    2018年11月29日 10:38
  • はるる

    巨大なラン、すごいですね。
    今日、NHKで昼間ランのお話をしていました。台湾からもってくるとか。趣味の園芸で台湾で撮影してきたとか。
    2018年11月29日 19:17
  • 長さん

    はるるさん、コメントありがとうございます。
    NHKでランの話をしていましたか。もしかして、コチョウランかな。
    つくばらん展に行った際、マイクロ胡蝶蘭を買ってきました。これも台湾産かも。
    2018年11月29日 21:42

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